2013年9月22日日曜日

十年のあゆみ その13

 「十年のあゆみ」の未掲載のページも残り少なくなりました。今回は、神戸市教育委員会、委員長、木戸只一氏の寄稿文をご紹介します。

西戸田の燈台守
  教育委員会 委員長  木戸只一

 およそ人間として明るく住みよい社会を希望しないものは一人もありますまい。家庭に明るさを、社会生活に住みよさを与えてくれるものは、数多くあるに違いありませんが、そのうちでも一番明るさをもたらし、生活を楽しいものにしてくれる原動力は、なんといっても子どもたちです。家庭のうちが明るく、子どもたちの楽しげな歌声が戸外にもれてくるのを聞くと、知らず知らず、ほほえまれてくるものです。健康な子どもこそは、家庭を明るく、住みよくする燈台です。ところが、幼年期から少年期にかけての子どもたちは、いわば竹の節のような時期ですから、身体がどうしてもアンバランスになりがちで、身体の調子が狂いやすく、発病もしやすい時です。
 この時期に発病すると、将来の健康にとり返しのつかない身体にならないとも限りません。特に呼吸器系統の病気は、ともすればその子の一生を左右しがちです。もしいとしい子が胸部疾患などに侵されたら、家庭内は火の消えたような、淋しさと暗さにとざされて、両親の顔から明るさが永久に消え去ってしまいます。
 子どもたちの健康を守り、これをさらに増進して、家庭を明るく住みよいものにしたいと念願するのは親心のつねです。その貴い親心を、何とか成就させてやりたい一念から、神戸市立少年保養所は生まれたのです。その生まれる発端は元神戸市衛生局長の阿部さんです。当時阿部さんは、厚生省の企画のなかに、少年保養所の設置があることを、いち早く知って、これを神戸市に誘致した先立ちです。
 原口市長さんや市会の方々のご理解とご援助をいただき、さらには地元の人たち、その他多くの人々の善意によって、少年保養所はすらすらと誕生しました。以来10ケ年の歳月がながれて、今日にいたったわけです。
 神戸市内には20万に近い児童生徒がおりますが、この人たちから胸部の疾患を根絶して、健康にはぐくむそのオアシスは西戸田の少年保養所です。この保養所こそ子どもたちを健康に育てる燈台です。この燈台の火は、ここ十年間、共にその燭光を倍加しています。神戸市民の家庭生活を明るく楽しいものになる原動力の一つが、この西戸田の保養所ではないでしょうか。
 所長さんや校長さん、その他この保養所に関係する多くの方々の苦心と努力は、なみ大抵のものではありますまい。それはちょうど人里離れた洋上の孤島で、日夜燈台を守っている人々の苦心に通じるものがあるでしょう。
 
この一文に添付されている写真です。遠くに見える建物が保養所なのでしょうか。

 

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